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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)12390号 判決 1968年11月07日

原告 神沢毅

被告 近藤勲

主文

被告は原告に対し金拾六万円およびこれに対する昭和四拾参年参月拾六日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払うべし。

原告のその余の請求を棄却す。

訴訟費用は被告の負担とす。

この判決は第一項に限り仮に執行することを得。

事実

原告は「被告に対し金十六万円およびこれに対する昭和四十二年十一月十一日以降完済に至るまで年五割の割合による金員を支払うべし。訴訟費用は被告の負担とす。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

「一、訴外渋江正己は被告に対し十六万円の印刷代金債権を有していた。

二、原告は昭和四十二年九月末日渋江正己から右債権を譲受けた。右債権譲渡の通知は同年十月十七日になしたほか昭和四十三年三月十三日附内容証明郵便をもってなし、右郵便は同月十五日被告に到達した。

三、原告と被告は昭和四二年一〇月一七日右債権の弁済についてつぎのような約定をした。

(一)  被告は原告に対し昭和四二年一一月から昭和四四年四月まで毎月一〇日限り五千円宛合計九万円を支払う。

(二)  被告が右の分割弁済を滞りなく履行した時は原告は残額七万円の債務を免除する。

(三)  被告が右分割弁済を一回でも怠った時は残額を一時に支払うほかこれに対する年五割の割合による損害金を支払う。

四、しかるところ、被告は右分割弁済の履行をしない。

五、よって原告は被告に対し、右十六万円とこれに対する昭和四二年一一月一一日から完済まで約定の年五割の割合による損害金の支払を求める。」

旨陳述した。<証拠省略>。

被告は適式の呼出を受けて昭和四三年一〇月三日午前一〇時の本件口頭弁論期日に出頭しないがその提出にかかる答弁書の要旨は、「原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求める。被告が渋江正己に対し十六万円の印刷代金債務を負担していることはこれを認める。昭和四二年一〇月中頃原告の代理人エビタニと称する者が突然来訪し、あなたが渋江印刷所に対して負っている十六万円の債務を取立に来たと告げ昭和四二年一一月一〇日から毎月五千円宛合計九万円を原告宛に送金することを約束した。しかし原告と渋江印刷所との関係が不明であるから債権取立の委任状或いは債権譲渡の通知を第一回の送金の日の十一月十日までに被告宛に送って貰いたいと告げておいた。その後原告は被告に対し右のような正当権限を証する書面を提示しないままである。」というに在る。

理由

渋江正己が被告に対し昭和四二年九月ごろ十六万円の印刷代金債権を有していたことは当事者間に争がない。原告は同年九月末日渋江正己から右債権を譲受け同年十月十七日債権譲渡の通知をなした旨主張するところ、これに対し、被告は同年十月中頃原告の代理人エビタニと称する者が突然来訪して右債権の取立に来た旨を告げられ同年十一月十日から毎月五千円宛を原告宛に送金することを約束したが原告と渋江正己の関係が不明であるから債権取立の委任状或いは債権譲渡の通知を第一回の送金日である同年十一月十日までに被告宛に送ってくれるよう求めたところその送付がない旨主張して原告の右主張を争っており、原告の主張事実を認めるに足る証拠はない。ところで原告は、渋江正己は昭和四三年三月一三日附内容証明郵便をもって被告に対し本件債権譲渡の通知をなし右郵便は同月十五日被告に到達した旨主張し、この事実は真正に成立したものと認められる甲第三号証の一、二、によって債権譲渡の日時の点を除いてこれを認めることができる。債権譲渡の日時については甲第三号証の一の内容証明郵便には具体的な記載がなく単に「今回」という記載があるのみであり一応昭和四三年三月十三日ごろ渋江正己が原告に本件債権を譲渡したものと認めるのほかはない。

かくて本件債権は同日ごろ渋江正己から原告に移転し同月十五日被告に対しその対抗要件を備えたものであるから被告は原告に対し本件債権十六万円を支払う義務あるものである。つぎに原告は右十六万円に対する昭和四十二年十一月十一日以降年五割の遅延損害金を請求し、その根拠として同年十月十七日原被告間に約定がなされた旨主張している。しかしながらさきに認定したように原告が本件債権譲渡を被告に対抗し得るのは昭和四十三年三月十五日以後であるから昭和四十二年十月十七日に原被告間に約定がなされてもそれは本件債権についての債権者と債務者の間の約定とはならない。原告の右主張は理由がない。被告が本件十六万円の債務につき原告に対し遅滞の責に任ずるのは本件債権譲渡につき原告が被告に対抗し得るに至った昭和四十三年三月十五日の翌日以降であり(原告は本訴を提起しこれを維持しているのであるから被告に対する履行の請求がなされていると認められる)、且つそれは民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務である。

以上の次第で原告の本訴請求は被告に対し十六万円およびこれに対する昭和四十三年三月十六日以降完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲内においてその理由があるのでこれを認容する。<以下省略>。

(裁判官 中田早苗)

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